およそ500年前、この地アクトールにはアクテリス王国という豊かな国が栄えていた。何代も続く王家は善政を行い、臣下にも能力の優れたものが集まり、ますます正しい政治が行われた。王都には世界中から商人が集まり珍しい品々を持ち込んで商いを行い、豊かな領地は多くの作物を育み、経済的にも文化的にも繁栄が続いた。国民は王家を敬い日々の暮らしを謳歌していた。
文化の中心地ともなった王都には特に優秀な魔法使いたちが集まり、いつしか魔法学院を創設した。魔法学院には世界中から優秀な魔法使いたちが集まり、研究と研鑽が続き魔法使いたちは大きく力をつけていった。
また、王都に集う商人たちは魔法学院で開発される様々な魔法の品を世界中に売りさばくことでさらに富を蓄えていった。こうした中、一部の大商人たちと魔法学院の結びつきが強くなっていき、いつしか政治的にも大きな発言力も持つようになっていった。
徐々に政治的権力と経済力をつけていく魔法学院と王国の対立が目立つようになり、今からおよそ200年前のある夜クーデターが起こる。魔法学院学長ダンディード卿が王都の権力掌握を宣言し魔法帝国スペラダルトを打ち立てたのだ。その夜、王族たちは全員行方知らずとなり王都を守る騎士団も武器や鎧を残したまま一斉に姿を消した。王都は一滴の血も流すことなくその機能を失い、官僚たちは逆らうこともできぬまま新たな皇帝の手先となった。
魔法帝国の魔力を中心にした支配は分かりやすかった。魔法の使えない人間は奴隷身分へと強制的に貶められ、支配層はすべて魔法使いたちが占有した。近隣の領国もすべてが属国扱いとなり、魔法使いとその使い魔で組織された軍隊と太守が送り込まれ、すべてを細かく支配された。魔法使いによる魔法を中心とした帝国支配が始まった。
魔法帝による支配は、優雅な生活を送る支配層の魔法使いたちにとって夢のような環境だった。魔法学発展のためであればどんな研究にも潤沢に予算と人員が配置され、帝国の魔法力はどんどん底上げされていった。また、奴隷層の中でも魔法の才能があるものはすぐに支配層に格上げされ、また魔法は使えずとも他の分野で才能があるものは特別な役職を与えられ支配層に与することができた。魔法による人工的な労働力の創出もあり、奴隷層が非人道的な扱いを受けることはまれで、反乱を起こされないよう狡猾にに懐柔と威圧を行われた。さらに娯楽も十分に与えられていた。奴隷たちはいつからか自分たちが奴隷であることを忘れ、神のように崇める魔法帝によって日々の生活を平穏に送れていることを感謝するまでになっていた。
魔法使いの中でも特に商才に秀でる者たちが魔法の品々や仕組みを使ったビジネススキームをどんどん開発していき、スペラダルト帝国の支配域は経済的にもどんどん拡大していき富はますます集まっていった。
一夜のクーデーター直後に、クーデター自体に反対していた一部の魔法学院の教授たちは魔法学院を抜け出した。彼らは大陸東方の山奥に逃げ落ちそこに新たな学院を創設した。
帝国に残った魔法使いたちの中でも良識のある者たちは徐々にその辺境の地にできた新学院の方に移っていき、いつしか帝国には己の欲望を原動力にする魔法使いだけになっていった。
初代皇帝ダンディードの治世は100年ほど続いたが、後年後継者候補の3名の魔法使いたちの抗争が水面下で始まり、ダンディード没後その争いが一気に表面化した。正式な後継者だった2代目皇帝は即位した3日後には暗殺され、残りの二人の候補の争いが国を分ける争いに発展したのだった。支配層の魔法使いたちは雌雄が決した後の己の振る舞い方のために戦いを静かに見守るものもあれば、自分が心酔する方にすべてを掛けた行動を起こすものもいた。帝都を舞台にした両陣営の戦いは、戦力が拮抗しいたこともあり長期戦になることが予想された。
しかし、多くの予想を裏切る形で決着がついた。どちらの陣営が仕掛けたか不明だが、開戦から4日目の夜、巨大な隕石の雨が帝都に降り注ぎ都は壊滅した。
隕石の衝突による衝撃は凄まじく、帝国全土に大きな地震が起こった。粉塵が舞い上がり空には靄がかかり続けた。そして太陽の光が地上に届かない薄暗い日々が1週間続いた。
靄が晴れ、太陽の光が再び帝都を照らした時、そこに人や建物の物陰は一切なくなっていた。代わりに隕石の衝突で大きく空いたクレーターに海水が流れこみ大きな湾と化していた。
魔法帝国の一夜の隕石の雨により壊滅し、海の底に沈んだのだ。
王都の消滅とともに魔法使いの支配層たちの統率は乱れに乱れた。帝国の魔力により駆動し機能していた統治システムが一気に瓦解したのだ。
領国の領主たちは、混乱していた帝国の太守たちを次々と討ち滅ぼし、100数年ぶりに自分たちの領土を取り戻した。こうして魔法帝国の支配はあっけなく終わった。